食道がんの基礎知識

食道がんの疫学・現状・危険因子

わが国における食道がんの罹患率は、男性で横ばい~減少傾向にあり、女性は横ばい~極めて緩やかな増加傾向です。死亡率は男女ともに減少傾向です。

性別では男性が多く、年齢は60~70歳台が多くなっています(約70%)。発生部位は胸部中部食道が最も多くなっています(約47%)。組織型は扁平上皮がんが約86%と圧倒的に多くなっています。また、胃がん、咽頭がん、大腸がん、肺がんなどが、同時にあるいは1年以上の間をおいて見つかることが多いことが知られています。

扁平上皮がんの危険因子としては喫煙・飲酒が挙げられます。予防因子として野菜・果物の摂取が挙げられます。腺がんの危険因子としては、欧米では胃食道逆流症による下部食道の持続的な炎症によってできるバレット上皮がその発生母地(最初にがんが発生する場所)として知られていますが、わが国においては発生数が少なく明らかとなってはいません。

1)食道がんの罹患率・死亡率

図3:食道がん罹患率の年次推移

図3:食道がん罹患率の年次推移
(地域がん全国推計値。出典:国立がんセンターがん対策情報センター)

2015年の食道がんの人口10万人あたりの患者数(罹患率)は、男性が31.2人、女性が5.9人でした(推計値)。男性は横ばい~減少傾向にあり、女性は横ばい~極めて緩やかな増加傾向です【図3】

図4:食道がん死亡率の年次推移

図4:食道がん死亡率の年次推移
(地域がん全国推計値。出典:国立がんセンターがん対策情報センター)

2019年の食道がん死亡者数は11619人であり、全悪性新生物の死亡者数の3.1%にあたります。人口10万人あたりの死亡患者数(死亡率)は9.4人であり、男性は15.9人で、肺、胃、大腸、膵臓、肝臓、前立腺に次いで7番目に多く、女性は3.2人で、10位以内に入っていません。死亡率は、男女とも減少傾向にあります【図4】

国の調査によるがん死亡データならびにそれを用いた種々のグラフは、国立がん研究センターがん対策情報センター(以下URL)より入手可能です。

URL:https://ganjoho.jp/professional/statistics/index.html

2)わが国における食道がんの現況

わが国における食道がんの現況として、日本食道学会の全国調査(2013年治療2019年解析症例8019例)によると、性別では男女比が約5.4:1と男性に多く、年齢は60代、70代に好発し、全体の年代の約70%を占めています。発生部位は、胸部中部食道が46.5%と最も多く、次いで胸部下部食道(28.2%)、胸部上部食道(12.1%)、腹部食道(8.5%)、頸部食道(4.8%)でした。組織型(細胞レベルの分類)は扁平上皮がんが86.2%と圧倒的に多く、腺がんが6.9%でした。治療法としては、内視鏡治療を施行した症例が17.7%、食道切除を施行した症例は61.2%、薬物療法放射線療法あるいは化学放射線療法を施行した症例が50.7%でした。

3)食道がんの発生要因

わが国において食道がんができる要因は、飲酒と喫煙です。わが国で約90%と頻度の高い扁平上皮がんでは、飲酒および喫煙が主な発生要因であり、その両方の習慣がある人は、がん発生の危険性が高まることが知られています。飲酒により体内に生じるアセトアルデヒドは発がん性の物質であり、アセトアルデヒドの分解に関わる酵素の活性が生まれつき弱い人は、食道がんの発生する危険性が高まることが報告されています。また、食生活において、栄養状態の低下や果物や野菜を摂取しないことによるビタミンの欠乏も発生要因とされ、緑黄色野菜や果物を摂取することで予防に効果的とされています。

腺がんは、わが国の食道がんでは数%ですが、欧米で増加傾向にあり、約半数以上を占めます。胃食道逆流症による下部食道の持続的な炎症によってできるバレット上皮がその発生母地(最初にがんが発生する場所)として知られています。胃食道逆流症の存在や胃食道逆流症発生の原因となるBMI(Body Mass Index肥満度を表す体格指数)の高値、喫煙などが食道腺がん発生に関係があるといわれています。わが国では、腺がんの患者数が少ないため発生要因は明らかになっていません。

「食道癌診療ガイドライン(2022年版)」では、食道がん発生予防の観点から、健常者に禁煙を強く推奨しています。また禁酒や節酒も推奨しています。食道がんの治療を行なった患者さんには、禁煙と禁酒の継続を強く推奨しています。