食道がんの治療

緩和治療

1)緩和治療とは

世界保健機関(WHO)によると、緩和ケアは「生命を脅かす疾患に伴う問題に直面する患者さんと家族に対し、痛みや身体的、心理社会的、スピリチュアルな問題を早期から正確にアセスメントし、解決することにより、苦痛の予防と軽減を図り、生活の質(QOL)を向上させるためのアプローチである」と定義されています。厚生労働省の平成30年度第3期がん対策推進基本計画においても、「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」が重点的に取り組むべき課題に挙げられています。

緩和ケアは、重い病を抱える患者さんやその家族一人ひとりの身体や心などの様々なつらさを和らげ、より豊かな人生を送ることができるように支えていくケア(日本緩和医療学会「市民に向けた緩和ケアの説明文」)です。患者さんや家族は、がんと診断されたとき、治療の経過、あるいは再発や転移が分かったときなどのさまざまな場面でつらさやストレスを感じます。緩和ケアでは患者さんと家族が自分らしく過ごせるように、医学的な側面に限らず、いろいろな場面で幅広い対応をします。

以上のことは、食道がんに限らず全てのがんに共通であり、担当医師や看護師だけでなく、緩和ケア専門医、心療科専門医、臨床心理士、歯科医師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士、ソーシャルワーカーなど多くの医療専門職がチーム医療を行う必要があります。なお、一般的な緩和ケアについては、国立がん研究センターがん情報サービス(以下URL)などを参考にしてください。

URL:https://ganjoho.jp/public/support/relaxation/palliative_care.html

2)食道がんにおける緩和治療

初期の食道がんには症状が無いことが多いのですが、がんが進行すると、水分や食事が通りにくくなり、栄養状態が悪くなります。がんが気管や神経に及ぶと、声がかすれたり、咳が出たりすることがあります。また、胸や背中に痛みを来す場合もあり、これらの身体症状によりQOLの低下を来すと考えられます。食道がんに対する緩和治療は、これらの身体症状と心のつらさを和らげ、QOLの維持や改善のための治療を、がんの診断と同時に進めます。

がんの進行や転移に伴う痛みに対しては、がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインに基づき、適切な治療が行われます。食道がんによる痛みは、胸部や腹部だけでなく、リンパ節転移や骨転移などの場所によっては全身に及ぶことがあります。これらの痛みに対して適切な評価を行った上で、必要かつ十分な鎮痛剤を用います。骨転移の痛みを和らげるために緩和的放射線治療が選択されることもあります。

食道ステント治療

手術不能の進行食道がんによる水分や食事の通過障害を改善するために、食道ステント【図40】が用いられています。 食道ステントは、がんによって狭くなっている食道内腔を広げることにより【図41】、水分や食事の摂取を目指しますが、挿入後の疼痛や、生命に危険を及ぼす食道穿孔(食道の壁に穴があくこと)や出血に十分注意して行う必要があります。

「食道癌診療ガイドライン(2022年版)」では、治癒を目的とした放射線治療を行う前には、穿孔や出血など、生命に関わる重篤な合併症を来す危険性が高いため、食道ステント留置は行わないよう強く推奨されています。

一方、食道がんに対する放射線治療後にも食道の通過障害が残り、手術も不可能である場合に食道ステントを留置することは、同様に重篤な合併症を来す危険性があることから、専門家の間でも意見が分かれており、特にその危険性について患者さんとその家族に十分な説明と同意が必要であるとされています。

図40:自己拡張型食道メタリックステント

図40:自己拡張型食道メタリックステント

図41:食道ステントの挿入

図41:食道ステントの挿入

その他の緩和治療

食道ステント挿入以外では、食道の通過障害に対する治療として、放射線治療化学放射線療法、食道バイパス手術などが行われています。また、栄養状態の改善のために胃瘻や腸瘻の造設が行われることもあります。

食道がんやリンパ節転移が気管に浸潤し、呼吸困難を起こすことがあります。食道がんが浸潤して気管に穴があくことを食道気管瘻といい、誤嚥と肺炎を起こすことが多いため、自己拡張型食道カバー付きステントや、気管ステントの挿入を行う場合があります。

食道がんの終末期には呼吸困難や大量出血など、短時間で生命に関わる状態に陥る可能性があるため、患者さん本人と家族に対する十分な説明が重要で、チーム医療を通じた心のケアと社会的援助も必要とされています。