食道がんの診断・検査

内視鏡検査

内視鏡は病変のわずかな色調や凹凸の変化を捉えられるため、早期がんの発見に必要不可欠な検査です。早期がんのなかでも、ごく初期のがんは転移の危険性が少ないため内視鏡的切除で根治することができます。このようなごく早期のがんは内視鏡で発見されています。

1)食道がんの深達度

食道がんの深さ(壁深達度)は、粘膜下層までと推定される表在型(表在がん)と、固有筋層以深に及ぶと推定される進行型(進行がん)に分けられます。

表在がんのうち、壁深達度が粘膜までのがん(粘膜がん)を早期がんと呼びます。壁深達度とリンパ節転移の頻度は密接な関係にあります。粘膜固有層【図19】までのがんにはリンパ節転移がほとんどないことから、内視鏡治療で根治が可能です。

2)食道がんの内視鏡診断 ~拾い上げから確定診断~

内視鏡では、病変の部位や範囲、形態を詳細に観察します。正確に病変の範囲を診断するにはヨード染色【註1】を行います。がんかどうかは内視鏡所見から多くの場合判断できますが、がんの組織型を確認する目的で生検【註2】を採取して、病理組織学的検査を行います。

【註1】ヨード染色:
0.5~1.0%のヨウ素・ヨウ化カリウム溶液を食道に散布する方法で、正常粘膜は茶色に染色されます。この現象は、正常の食道粘膜細胞は細胞内にグリコーゲンを含んでいるため、上記溶液を散布すると、ヨウ素・でんぷん反応により食道粘膜が茶色に染色されることを利用したもので、食道がん細胞はグリコーゲンを含まないので茶色に染色されません(不染)。

【註2】生検:
鉗子(細い道具)を用いて病変から組織を採取し、病理検査(顕微鏡で細胞を見て診断する検査)を行ってがんかどうかなどの診断をする方法です。早期食道がんの多くは症状がなく、その発見には内視鏡検査が不可欠です。消化器内視鏡検査に用いるスコープは、高画質・高解像度で高精細な機能を有しており、食道粘膜の細かい模様や色調、陥凹や隆起など、ごくわずかな変化に着目して診断しています。全く色調変化を伴わない平坦な病変もありますが、このような病変以外は通常観察で拾い上げが可能です。

図5:早期食道がんの内視鏡像

図5:早期食道がんの内視鏡像

通常の内視鏡観察に加えて、NBI(Narrow Band Imaging)やBLI(Blue LASER Imaging)、LCI(Linked Color Imaging)などの狭帯域光観察【註3】を併用すると、病変の領域が明瞭となり発見に役立ちます。

また、通常観察や狭帯域光観察でもわかりにくい、色調変化に乏しい平坦な病変の見逃しの防止には、ヨード染色が有効です。【図5】は粘膜固有層【図19】までの早期がんの症例です。

【註3】狭帯域光観察:
通常観察で用いる観察光を、短波長側にシフトさせることで、病変を見やすくしたり、表面微細構造や微細血管を観察しやすくしたりする画像強調法です。

経鼻内視鏡、経口通常径内視鏡

図6

内視鏡は口から挿入する太い内視鏡が一般的でしたが、最近では鼻から挿入できる、ボールペン程度の太さの細い内視鏡が開発されています。以前は画質や操作性が劣ることから、小さながんを発見するには不安がありましたが、最近は性能が著しく向上し、太い内視鏡とほぼ同等の画質をそなえています【図6】。早期がんの診断や小さく組織を採取(生検)することも通常の内視鏡と同じように可能です。内視鏡がのどに入る時に「おえっ」となりにくいため、食道がんと重複しやすい頭頸部(とうけいぶ)領域の観察もしやすいという利点があります。口からの内視鏡は辛かった、という方は鼻からの細いカメラを希望して下さい。写真は食道表在がんで、左が経鼻内視鏡、右が通常径の内視鏡での観察です。

3)表在型食道がんの精密深達度診断 ~通常観察と拡大観察~

表在がんのうち粘膜固有層までにとどまるがんは、リンパ節転移がほとんどないため、内視鏡的治療が適応となります。

表在がんの精密な壁深達度診断は内視鏡検査で行います。病変部の隆起の大きさや高さと形状、陥凹の深さや形態、陥凹内の状態など、細かい変化をよく観察して診断します。

拡大内視鏡は食道表面を拡大し、病変部の微細血管形態の変化を観察する方法です。血管形態の違いから、良悪性の鑑別診断や表在がんの深達度などの精密診断を行います。NBIやBLIを併用すると、微細血管が見やすくなります。

図7:進行食道がんの内視鏡像と超音波内視鏡(EUS)像

図7:進行食道がんの内視鏡像と超音波内視鏡(EUS)像
超音波内視鏡(EUS)は、スコープの先端に超音波プローブが組み込まれており、内視鏡を用いて食道や胃の中から直接、超音波検査を行う精密検査です。

周囲が肺で囲まれている食道は、体表から行う超音波検査は施行できませんが、超音波内視鏡(EUS)では診断の妨げになる空気の影響を受けないため、病変の深達度や拡がりの程度、リンパ節転移など、より詳細な超音波診断を行うことができます。また、食道と胃の境界部にある病変や、胃の周りのリンパ節も、空気の影響がないため詳細に観察することができます。

食道は気管や大動脈、心嚢、肺などの主要臓器に接しており、周囲臓器への浸潤の有無を診断することは治療方針を決定するうえで重要です。進行がんの深達度診断はCT検査で行われることが多いですが、超音波内視鏡検査は心臓の動きや呼吸の影響を受けず、食道の中から直接検索するため、より精度の高い診断ができるメリットがあります。

【図7】に進行食道がんの症例を示します。超音波内視鏡検査を行うと、食道がんは食道壁のほとんどを占めるまでに分厚くなり(↔)、12mmほどに腫大したリンパ節転移も描出されます(矢頭)。

また、食道がんのリンパ節転移は頸部・胸部・腹部のどの領域にも発生し得るため、頸部・腹部超音波、CT検査、超音波内視鏡検査、必要に応じてPET検査を行って総合的に診断します。