食道がんの治療

食道胃接合部がん(腹部食道がん)の手術治療

図26:西の定義による食道胃接合部

図26:西の定義による食道胃接合部 (胃癌取扱い規約15版 金原出版)より引用

食道胃接合部領域は胸部下部食道がん、あるいは胃上部がんと異なるリンパ節転移様式をとるため、手術術式、特に切除範囲と郭清範囲において特殊な配慮を要します。

このため現在の食道癌取扱い規約および胃癌取扱い規約では、独立した領域として分類されています。

その定義は、本邦では食道胃接合部から上下2cmを食道胃接合部領域とし、その中に腫瘍の中心があるがんを組織型に関係なく食道胃接合部がん(噴門部がん)とする西の定義が用いられています 【図26】

このため、腹部食道がん(Ae)も食道胃接合部がんに含まれることになります。さらに腫瘍の局在によりE:食道のみに局在、EG:食道を主に食道と胃に局在、E=G:食道と胃に同等に局在、GE:胃を主に食道と胃に局在、G:胃にのみ局在というように分類されています【図27】

一方、欧米では腺癌に対するジーベルト(Siewert)の定義が広く用いられてきました。EGJの上下5cm以内に存在する腺がんを食道胃接合部がんとし、食道側1cmから5cmの間に存在するものをタイプⅠ、食道側1cmから胃側2cmの間に存在するものをタイプⅡ、胃側2cmから5cmの間に存在するものをタイプⅢというように分類されています。その中でもタイプⅡが狭義の食道胃接合部がんと定義されています【図28】

図27:食道胃接合部がんの分類と記載法

図27:食道胃接合部がんの分類と記載法 (食道癌取扱い規約11版 金原出版)より引用

図28:ジーベルト(Siewert)の定義による食道胃接合部

図28:ジーベルト(Siewert)の定義による食道胃接合部(胃癌取扱い規約15版 金原出版)より引用

さらにがんの進行度を判定する基準として、国際的に活用されている国際対がん連合(UICC)採用のがんの分類方法であるUICC-TNM分類の現行版でも、食道胃接合部がんはジーベルトの定義を念頭に置いて定義されています。食道胃接合部から5cm以内に中心をもつ腫瘍を食道胃接合部がんと定義されています。なお、そのステージ分類にあたっては食道がんの分類が用いられています。

食道胃接合部がんに対する手術術式は、胃がんに準じた噴門側胃切除術(+下部食道切除)あるいは胃全摘術(+下部食道切除)、食道がんに準じた食道切除・胃上部切除のいずれかが行われてきましたが、術式の選択は外科医や施設の選択に委ねられているのが現状です。胃の切除範囲(胃を全摘すべきか)に関してはこれまで、前向きランダム化比較試験がなされておらず、明確な推奨規定が無いのが現状です。食道癌診療ガイドライン第4版(2017年版)では「食道胃接合部癌に対する手術において胃全摘は行わないことを弱く推奨する」となっています。

食道胃接合部がんに対する手術のアプローチ法(術野への到達方法)として経胸的アプローチと経腹的アプローチがあります。しかし、いずれを選択すべきかに関する検討はこれまであまりなされていません。本邦からの前向きランダム化比較試験は日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG)によるJCOG9502があるのみであり、E=G、GE、Gに対しては左開胸アプローチよりも開腹経裂孔アプローチが推奨されることとなっています。

一方、海外からの報告では、オランダからの多施設前向き試験が複数あります。これらの結果により欧州ではジーベルト タイプⅠには右開胸アプローチが、ジーベルト タイプⅡには開腹経裂孔アプローチが推奨されることになっています。

食道胃接合部がんのリンパ節郭清範囲に関する検討はさらに少ないのが現状です。本邦からは、長径4cm以下の食道胃接合部がんにおけるリンパ節転移に関する日本食道学会、日本胃癌学会共同の後ろ向き全国調査が行われたのみです。

各リンパ節転移頻度とリンパ節郭清効果が検討され、その結果に基づくリンパ節郭清アルゴリズムが暫定的基準として現行の胃癌治療ガイドライン第5版(2018年)にも掲載されています。これによるとE、EG、E=Gの扁平上皮がんに対しては中下縦隔リンパ節郭清(進行がんでは上縦隔まで)が推奨されており、腺がんでは下縦隔リンパ節郭清のみの推奨となっています。

しかしGE、Gに対する縦隔リンパ節郭清は推奨されていません【図29】

図29 食道胃接合部癌に対するリンパ節郭清アルゴリズム

図29 食道胃接合部癌に対するリンパ節郭清アルゴリズム(胃癌治療ガイドライン第5版より 金原出版)術

一方、食道癌診療ガイドライン第4版では、「食道胃接合部癌に対する手術において下縦隔リンパ節郭清を行うことを弱く推奨する」となっています。

これらのことを踏まえて、日本食道学会と日本胃癌学会が共同で2014年にスタートした第Ⅱ相試験である「食道胃接合部癌に対する縦隔リンパ節及び大動脈周囲リンパ節の郭清効果を検討する介入研究」が2017年に症例登録を終了しています。最近その解析結果が徐々に公開されており、今後の術式及び郭清範囲決定にも変化が見られる可能性があります。