食道がんの治療

放射線治療

1)放射線治療とは

放射線治療は手術、抗がん剤による治療と並ぶ、がんの3大治療法の1つです。食道がんの治療では、放射線治療単独で行われる場合と、抗がん剤と併用される場合(化学放射線療法)があります。

また、がんを治すことを目的とした治療(根治的治療)から、がんを治すことが難しい場合でも、がんを縮小させることで、出血、痛みなどの苦痛を和らげることが期待できる治療(緩和的治療)です。

2)放射線治療の特長

放射線治療は手術と同様に局所治療です。がん病巣及びそれが広がっていく範囲を狙って体の外から放射線を照射することで治療します。

その特長は、(1)臓器の働きや形を保つ、(2)治療自体の侵襲が少ない、(3)手術や抗がん剤と組み合わせることで初回治療から再発がんまで幅広く用いられる、などがあります。

放射線治療は、治療の目的に応じて数週間かけて行う治療です。根治的治療では5週間から6週間半程度で行われます。一方、緩和的治療では2~3週間前後が一般的ですが、病状等に応じてさらに短期間で行われることもあります。

3)放射線治療の進め方

治療方針の決定

食道がんの治療法には内視鏡的切除、手術治療、放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)の4つがあります。それぞれの治療法には特長があり、単独または組み合わせた治療を行います。

治療方針は主としてがんの進み具合(病期)と体の状態によって決まります。詳細は日本食道学会による「食道癌診療ガイドライン(2017年版)」にまとめられています。患者さんに放射線治療が適しているかどうかは、がんの病期と体の状態などから、主として外科医と放射線腫瘍医とが連携して検討します。

放射線治療が予定されると、放射線腫瘍医の診察を受け、病期や全身状態をもとに、治療の目的、予想される効果と副作用等を考慮して放射線治療方法が決定されます。

放射線治療計画

図30 :根治的放射線治療における照射範囲

図30 :根治的放射線治療における照射範囲

今日、大部分の施設ではCT検査を用いた三次元治療計画が行われ、腫瘍やリスク臓器の線量を評価した高精度治療が行われています。固定具を作成したり、皮膚に目印となる印を貼ったり書いたりして、治療を受けるときと同じ姿勢でCT検査を行います。CT画像を治療計画装置に転送し、コンピュータ上で放射線治療計画を行います。

がんの存在範囲、がんの進展が予想される範囲等の標的、放射線を照射したくない正常組織などを十分に検討し、どの方向から、どういう方法で、どの程度の線量を投与すべきかを検討し、最も適した放射線治療方法を決めます【図30】

放射線治療の実際

図31: 放射線治療装置(リニアック)

図31: 放射線治療装置(リニアック)

食道がんの放射線治療は体の外から放射線を照射する外部照射で行われることがほとんどです。外部照射は放射線治療室でリニアックという装置【図31】を用いて行われます。治療用の寝台上に寝た状態で、照射部位の位置合わせを適確に行い、可能な場合は治療装置に付属したCTあるいはX線透視装置を用いて照射部位を確認したうえで、放射線治療を行います。

放射線治療室内にいる時間は数分程度ですが、実際に放射線が照射されている時間は数十秒程度です。照射の間は息を止める必要はありません。照射中に痛みや熱を感じるようなことはありません。

がんを治す目的で放射線治療が行われる場合には、この治療を1日1回、土・日や祝日を除く週5回(施設によっては週4回など、回数が異なることがあります)繰り返し、5週間から6週間半程度かけて放射線治療を行います。

4) 食道癌診療ガイドライン2017年版に基づく放射線治療

根治的治療では、放射線治療単独よりも抗がん剤を同時併用する化学放射線療法の方がより有効であることがわかっています。年齢や合併症等のために同時併用が困難な場合以外は、化学放射線療法が推奨されています。

根治的治療の適応となるのは、病変が局所あるいは領域リンパ節にとどまる症例です。表在がんで内視鏡治療後にがんの遺残がある場合、あるいはリンパ節転移の可能性がある場合には(化学)放射線療法を追加することがあります。局所進行例では、全身状態が手術に適さないか、あるいは手術を希望しない症例が対象となります。

また、手術前に化学放射線療法を行う場合もあります。切除が不可能な症例では、全身状態が良好であれば化学放射線療法の適応となり、その後手術が検討される場合があります。全身状態が不良な症例では、放射線単独治療が検討されます。通過障害がある進行食道がんに対して緩和的放射線治療が検討される場合があります。放射線治療は、術後残存例あるいは新鮮例以外にも、遠隔転移のない再発例に対して行われる場合があります。

放射線治療を単独で行う場合には、治療効果が低下する可能性があるため、治療期間の無用な遷延は避けるべきであるとされています。根治的治療における総線量は、化学放射線療法では主として60 Gy、あるいは治療の副作用や救済手術を考慮して50.4 Gyが用いられます。放射線治療単独の場合には、60~70 Gyが処方される場合が多いです。

5) 粒子線治療

粒子線治療は今後期待される治療法の一つです。炭素線による重粒子線治療では、X線より生物学的効果が高く、線量分布が良好であり、高い抗腫瘍効果によるがん病巣の制御率向上などが期待されています。

陽子線はX線と生物学的効果がほぼ同等ですが、肺、心臓等への線量が大幅に減らせることから、正常組織へ副作用の低減が期待されています。これら粒子線を用いた根治的放射線治療が、臨床試験あるいは先進医療の枠の中で行われつつあり、最適な照射方法、治療効果や長期的な安全性に関する報告が待たれています。