食道がんの治療
図38:食道がん術後のリンパ節再発(CT画像)
食道がんの治療後は定期的に経過観察のため検査を受けていただく必要があります。その目的は、(1)食道がんの再発(局所再発、リンパ節転移や遠隔臓器への転移)【図38】の早期発見、(2)他臓器に新たにできるがんの早期発見です。
食道がんにかかられた患者さんは約23%程度の頻度で他の臓器にもがんができることがわかっており、咽頭を中心とする頭頸部がん、胃がん、大腸がんの順で多いと報告されています。したがって経過観察では内視鏡検査を受けて、食道だけでなくのどや胃、大腸も十分に観察しなければなりません。
経過観察方法、時期については各施設で少しずつ異なり、日本食道学会で推奨する決まったプロトコールは無いのが現状ですが、がんのステージ、受けられた治療方法によって変わってきます。
図39:表在食道がんの深達度とリンパ節転移頻度 日本食道学会編「臨床・病理 食道癌取り扱い規約 第11版(2015年)」 (金原出版)より作成
内視鏡的食道粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection:EMR)や内視鏡的食道粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection:ESD)により食道がんの治療を受けられた患者さんは、食道がんの壁深達度により経過観察方法が変わってきます。
すべてのがんは粘膜の最も内側の「上皮」から発生します。粘膜固有層までにとどまるがんはリンパ節転移の可能性はほぼ0%であることが分かっています【図39】。
病理組織検査で粘膜固有層までのがんであったと診断されれば治療後にCT検査などでリンパ節再発を検索する必要は基本的にありません(肺がんなどのスクリーニング目的で撮影している施設もあります)。
図40:食道がん内視鏡治療後の瘢痕近くに発見された早期食道がん
一方で、治療した場所やそこから離れた食道にがんができないか【図40】、また頭頸部がん、胃がん、大腸がんの検索のため内視鏡検査は必要です。
食道内の別部位の再発は、禁酒をすることで抑制できます。経過観察の期間は、最初の1、2年は3ヶ月から6ヶ月毎、その後期間を延ばしていくのが一般的です。粘膜筋板に浸潤もしくは粘膜筋板からわずかに(200µmまで)粘膜下層に浸潤していた場合は約10%程度のリンパ節転移の可能性があります。
また粘膜下層にしっかりと(200µm以上)がんが浸潤していた場合は約半数の患者さんにリンパ節転移があります【図39】。リンパ節転移の可能性がある場合は上記の内視鏡検査に加え定期的にCT検査やPET検査などでリンパ節再発や他臓器転移を検索する必要があります。
リンパ節再発や他臓器転移は2~3年後に発見される場合もあり定期的に長期間経過観察する必要があります。
表在がんでもリンパ節転移の可能性があると判断された患者さんや進行がんの患者さんは手術または放射線照射を主体とする治療を受けます。手術を受けた後は再発の早期発見のため定期的にCTを中心とした検査を行います。このCT検査でリンパ節再発【図38】、遠隔臓器転移の検索を行います。施設によってはCT検査ではなくPET検査を行っている施設もあります。
他にも頸部、腹部超音波や骨シンチグラフィーなどを行う場合もあります。食道がんの再発は80%以上が手術後2年以内に起こることが分かっています。そのため最初の1、2年は3~6ヶ月毎など短期間でCT検査を繰り返し、その後期間を延ばしていくのが一般的です。
また、他臓器に新たにがんができる可能性もあります。前に述べましたが、食道がんに合併する他臓器がんで最も多いものは頭頸部がんと胃がんです。頭頸部がん、胃がんが進行した状態で見つかると食道がんの手術後では手術することができない場合もあります。そのため年に1回は内視鏡検査を行い再発があったとしても内視鏡治療で対応できる早期の状態で発見できるように心がけています。
食道がんが手術可能な状態であっても様々な併存疾患で手術ができない場合、もしくは手術を希望されない患者さん、他臓器浸潤や遠隔リンパ節転移のある場合などに有用な治療法として根治的化学放射線療法があります。
約1ヶ月半程度の放射線照射に加えCDDP+5FUを中心とする抗がん剤治療を放射線と併用で2コース行うのが現在の標準的な治療法です。この治療法を受けられた患者さんは、まずがんが消えたかどうかを確認することが重要となります。治療終了時(終了後3~4週後)に内視鏡による生検組織診断、CT検査もしくはPET検査で評価し、がんが消えている(complete response:CR)場合、定期的に経過観察をしていくことになります。検査での要点は局所再発の早期診断とリンパ節、他臓器転移の早期診断です。局所再発の検索には内視鏡検査を行うことになります。
内視鏡検査時に組織を採取し病理組織診断を併用し参考にします。リンパ節再発や他臓器転移の検索にはCT検査もしくはPET検査を受けていただく必要があります。これらの遺残や再発は大部分が1~2年以内に起こることが多く、そのため根治的化学放射線療法後の経過観察をされる患者さんの場合は内視鏡検査とCT検査もしくはPET検査を最初の1、2年は3ヶ月から6ヶ月毎に、それ以降徐々に期間を延ばしていくのが一般的です。
再発が確認された場合は手術による切除を第1に考えますが、リンパ節転移や他臓器転移がなく局所の遺残再発のみの場合はEMR、ESDの内視鏡切除で対応可能な場合があります。内視鏡切除が不可能の場合でも光線力学療法(Photodynamic therapy:PDT)で治療が可能なことがあります。
また放射線照射後の局所再発はがんが急速に大きくなる場合があるので、つかえ感などの症状を自覚した場合は早めに主治医にご相談ください。
食道がんの治療としては、そのほかにもステント治療、抗がん剤単独治療、緩和治療などの治療法がありますが、これらの治療法を選択される場合は患者さん毎に状態が大きく違いますので主治医とご相談ください。
よりやさしい“食道がん”に関する情報や療養に関する情報および食道がんに関するQ&Aは、
国立がん研究センターがん情報サービス(下記リンク)を参照してください。