食道がんの治療
化学放射線療法は食道がんの治療上きわめて有用な治療法の1つで、前項で述べたように根治的放射線療法では放射線療法を単独で行うより、同時に抗がん剤治療を行う化学放射線療法が有効であることが証明されています。
年齢や他に持っている病気などのために、放射線療法と抗がん剤治療を同時に行うことが難しい場合以外は、化学放射線療法が勧められています。以後、化学放射線療法について概説します。
食道がんは進行度に応じて0~Ⅳbの6つのステージに分けられています。(食道がんの病期(ステージ)と治療の選択 参照)
それぞれのステージにおける化学放射線療法の位置付けについて説明します。
・ステージ0期【図32】: 粘膜内にとどまりリンパ節転移がない食道がんが対象になります。内視鏡治療により狭くなる可能性がある3/4周以上の食道がんや、リンパ節転移の可能性がある食道がんなどの、内視鏡治療の適応を外れる症例に対しては、手術もしくは根治的化学放射線治療が選択されます。
・ステージⅠ期【図32】: 粘膜内にとどまるもののリンパ節転移がある、もしくは粘膜下層に浸潤する食道がんが対象になります。手術が推奨されているステージですが、手術を希望しない患者さんや手術に耐えられない患者さんに対しては、根治的化学放射線療法が選択肢に挙げられます。
図32:ステージ 0期、I期食道がんの治療選択 日本食道学会編「食道癌診療ガイドライン 2017年版)」 (金原出版)より作成
・ステージⅡ・Ⅲ期【図33】: 現在わが国におけるステージⅡ・Ⅲの胸部食道がんに対する現時点での標準治療は、シスプラチン+5-FUによる術前抗がん剤治療+手術です。
この中でもより進行した食道癌に対しては、より強力な術前化学放射線療法でがんを制御した後に手術を行う施設もあります。またステージⅠと同様に、手術を希望しない患者さんや手術に耐えられない患者さんに対しては、根治的化学放射線療法が選択されることがあります。
図33:ステージII期、III期食道がんの治療選択 日本食道学会編「食道癌診療ガイドライン 2017年版)」 (金原出版)より作成
・ステージⅣa期【図34】: 局所でほかの臓器に浸潤し、切除ができない食道がんが対象になります。根治の可能性がある治療の一つとして、全身状態が良い患者さんに対しては根治的化学放射線療法が選択肢に挙げられます。
図34:ステージIV期食道がんの治療選択 日本食道学会編「食道癌診療ガイドライン 2017年版)」 (金原出版)より作成
放射線の線量をグレイ(gray:Gy)という単位で表します。
これまでわが国では60Gyを用いた根治的化学放射線療法が主流でしたが、現在50.4Gyを用いた臨床試験も行われています。通常はこれを分割し、前者では1回2.0Gyずつ、後者では1.8Gyずつ照射します。
放射線治療にシスプラチンと5-FUという抗がん剤を併用します。
シスプラチン(70mg/m2)を第1と第29日目に、5-FU(700mg/m2)を第1~4と第29~32日目に投与することが、わが国では一般的です。
ここでは主に放射線治療による副作用について概説します。副作用には治療中や治療後早期に出る急性期障害と治療後数ヶ月経過してから出現する晩期障害があります。
・骨髄抑制:
血球を作る工場である骨髄が一時的に障害を受けるために、白血球・赤血球・血小板が減少することがあります。
図35:放射線性肺臓炎(CT画像)
・放射線肺臓炎【図35】:
放射線照射によって肺が障害されることにより起こる肺の炎症です。細菌などの感染によって起きる“いわゆる肺炎”とは異なる病態です。初期症状は動いたときの息苦しさや咳などですが、無症状の場合もあります。
多くは放射線の照射範囲のみに限局した軽症例ですが、炎症が広範囲に及んだときには重篤な状態となります。放射線治療中から治療が終了した数ヶ月後に発症します。
・放射線皮膚炎:
一般的な外照射では放射線が皮膚を通過するため、放射線の照射範囲に一致して皮膚に炎症が起きます。放射線治療の後半に赤くなる場合が多く、炎症が強くなるとかゆみや熱感、痛みを伴います。まれに重症化し、皮膚表面の上皮が広範囲に剥がれ、びらんになることがあります。
・放射線食道炎:
正常な食道が放射線の照射範囲に含まれると、粘膜に炎症が起き、赤くただれることがあります。多くの場合、放射線治療の後半に食事を飲み込んだときののどの痛みとして出現します。
・瘻孔形成:
気管や大動脈などの周りの臓器への浸潤を伴う食道がんの場合、がんの縮小により瘻孔という管状の穴ができ、食道と気管や大動脈がつながることがあります。食道と気管がつながることにより唾液が気管に流れ込み、また食道と大動脈がつながることにより大量に吐血するため重篤な状態となる場合があります。
・放射線肺臓炎:
急性期障害の一つですが、晩期障害として治療が終了した数ヶ月後に出現することもあります。
・胸水・心嚢水貯留:
放射線治療による炎症の影響で、肺の周りの胸腔や心臓の周りの心嚢腔に液体が貯留することがあります。無症状であれば経過観察になりますが、息苦しさや頻脈などの症状を伴う場合は、穿刺して液体を除去する必要があります。
・食道狭窄:
放射線照射により、がんがあった食道の内腔が狭くなることがあります。これはがん細胞が遺残していなくても起こることであり、食事を摂ることが難しくなる場合もあります。
よりやさしい“食道がん”に関する情報や療養に関する情報および食道がんに関するQ&Aは、
国立がん研究センターがん情報サービス(下記リンク)を参照してください。