食道がんについての基礎知識

食道がんの疫学・現況・危険因子

1)食道がんの罹患率・死亡率

図3:食道がん罹患率の年次推移(年齢調整罹患率)

図3:食道がん罹患率の年次推移(年齢調整罹患率)
(データソース:地域がん全国推計値。出典:国立がんセンターがん対策情報センター)

わが国における食道がんの罹患率(1年間に新たに食道がんと診断される率)は、男性でゆるやかに増加傾向にあり、女性は横ばいです【図3】
2014年の食道がんの人口10万人あたりの患者数(粗罹患率)は、男性が31.1人、女性が5.4人、年齢調整罹患率は男性が16.9人、女性が2.7人でした(推計値)。

図4:食道がん死亡率の年次推移(年齢調整死亡率)

図4:食道がん死亡率の年次推移(年齢調整死亡率)
(データソース:地域がん全国推計値。出典:国立がんセンターがん対策情報センター)

一方、2017年の食道がん死亡者数は11,568人であり、全悪性新生物の死亡者数の3.1%にあたります。人口10万人あたりの死亡患者数(粗死亡率)は9.3人であり、男性は15.8人で、肺、胃、大腸、肝臓、膵臓、前立腺に次いで7番目に多く、女性は3.1人で、10番目以降です。年齢調整死亡率では男性7.4人、女性1.2人で、男女ともに横ばいからやや減少傾向にあります【図4】

国の調査によるがん死亡データならびにそれを用いた種々のグラフは、国立がん研究センターがん対策情報センター(以下URL)より入手可能です。

URL: https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/index.html

2)わが国における食道がんの現況

わが国における食道がんの現況として、日本食道学会の全国調査(2008年)によると、性別では男女比が約6:1と男性に多く、年齢は60代、70代に好発し、全体の年代の約69%を占めています。発生部位は、胸部中部食道が約50%と最も多く、次いで胸部下部食道(約25%)、胸部上部食道(約12%)、腹部食道(約6%)、頸部食道(約5%)でした。組織型(細胞レベルの分類)は扁平上皮がんが約90%と圧倒的に多く、腺がんが約4%でした。

食道がんの患者さんで、食道がんが見つかると同時にあるいは1年以上の間をおいて他にもがんが見つかる可能性は約23%で、胃がん、咽頭がん、大腸がん、肺がんの順で多く、食道がん診療において注意が必要な問題です。

3)食道がんの発生要因

わが国での食道がんの発生する要因は、飲酒と喫煙です。わが国で頻度の高い扁平上皮がんでは、飲酒および喫煙が主な発生要因であり、その両方の習慣がある人は、がん発生の危険性が高まることが知られています。

飲酒により体内に生じるアセトアルデヒドは発がん性の物質であり、アセトアルデヒドの分解に関わる酵素の活性が生まれつき弱い人は、食道がんの発生する危険性が高まることが報告されています。アルコールを飲むと顔が赤くなる人は要注意です。若い時は酒に弱く、すぐ赤くなったけど、「鍛えられているうちに飲めるようになり、赤くならなくなった」というのが危ないパターンです。このような人は、体の中にアルデヒドが蓄積し易く、食道がんを発症する危険が高いのです。

また、食生活において、栄養状態の低下や果物や野菜を摂取しないことによるビタミンの欠乏も発生要因とされ、緑黄色野菜や果物を摂取することで予防に効果的とされています。また、最近の研究で加齢によって食道扁平上皮にがん化に関わる遺伝子変異が蓄積され、これらの危険因子が強く関わるようになることが明らかになっています。

一方、腺がんは、わが国の食道がんでは数%ですが、欧米で増加傾向にあり、約半数以上を占めます。胃食道逆流症による下部食道の持続的な炎症によってできるバレット上皮がその発生母地として知られています。胃食道逆流症の存在や胃食道逆流症発生の原因となるBMI(Body Mass Index:肥満度を表す体格指数)の高値、喫煙などが食道腺がん発生に関係があるといわれています。わが国では、腺がんの患者数が少ないため発生要因は明らかになっていません。

ガイドラインでは、食道がん発生予防の観点から、健常者に禁煙を強く推奨しています。また禁酒も推奨しています。食道がんの治療を行った患者さんには、禁煙と禁酒の継続を強く推奨しています。