理事長挨拶

日本食道学会理事長 土岐 祐一郎
日本食道学会理事長
土岐 祐一郎

この度、伝統ある日本食道学会理事長に選任していただきました。
関係の皆様に心より御礼申し上げます。
国民の利益のため、そして、本学会の発展のため、皆様のご支援をいただき尽力する所存です。

食道の病気を抱えた患者さん、ご家族のかた、また一般市民の方々へ

日本食道学会は、食道がんを中心として、しかし、悪性の疾患だけではなく逆流性食道炎など良性の疾患を含めて広く食道の病気を扱う食道専門の学会です。外科医、内科医、放射線科医、病理医、基礎医学、また医師以外の看護師・栄養師など、食道の病気を専門とする多くの医療職の人が集まっていることがその特色です。

食道がんについて、日本食道学会は食道癌診療ガイドラインや食道癌取り扱い規約を作成し、我が国の食道癌診療のレベルアップや標準化に大きく貢献しています。また、食道癌は、治りにくい癌であること、胃がんや大腸がんに比べると数が少ないこと、頸部胸部腹部にまたがるので手術や術後管理が難しいこと、放射線治療が効きやすいこと、多職種を交えたチーム医療が必要であること、など様々な特徴から専門性の高い病院で治療が行われることが多いです。日本食道学会では皆さんが日本全体で安心して食道がん治療がうけられるように専門施設を認定し、また、食道疾患、食道がんの手術のエキスパートとして認定医、専門医を認定しています。皆様が受診されるときの一助として是非ご活用ください。日本の食道がんの治療成績は常に世界のトップクラスで、各国が日本の内視鏡、手術、化学療法、放射線療法、周術期管理を学んで自国に持ち帰っています。今後も世界最高のレベルを維持して我が国だけではなく世界中の患者さんに貢献できることを役割と考えています。

食道良性疾患としては、逆流性食道炎は最近、日本で急激に増加しています。日本では薬物療法が中心ですが、難治例には手術療法が行われることもあります。逆流性食道炎から食道がんが発生することも増えており大きな問題になっています。また、食道がつかえるアカラシアという数の少ない、しかし難治性の病気があります。アカラシアは手術療法が中心ですが最近では内視鏡治療も行われるようになってきました。このように良性の食道疾患に対しても、内科、外科が協力して最善の治療を行えるように、日本食道学会が中心的にまとめ役を担っています。

皆様が日本食道学会からの情報発信をうまく活用してより良い治療が受けられることを期待しております。

日本食道学会員、および医療関係者の皆様へ

私は、幕内博康先生、安藤暢敏先生、松原久裕先生についで4代目の理事長になります。日本全体が右肩下がりの時代ですが、歴代の理事長が育んで来られた日本食道学会を委縮させることなく、さらに発展させるべく山積する課題に取り組んでいきたいと思います。

新しい治療への対応

癌治療は、今後数年、免疫療法、分子標的治療の延長上のゲノム医療、AIの活用、これらにより激変することが考えられます。学会としてこれらの新しい治療の臨床導入に少しでも貢献できるように尽力したいと思います。過去に食道癌治療は分標的治療や免疫療法の導入で他癌に後れを取った苦い経験があります。食道癌の患者さんのために、学会が率先して基礎的研究、臨床研究を行うことが必要であると考えます。

食道疾患診療の均てん化と集約化

日本食道学会は食道癌診療ガイドライン、食道癌取り扱い規約を作成し広く食道癌診療を行う医療職の方に活用していただいております。また、食道認定医、食道外科専門医、食道外科専門医認定施設は広く会員全体に浸透し、近年はビデオ審査の導入などにより更なる充実を図っています。これらの制度を通じて、日本全体のレベルアップを伴う均てん化を目標としています。そして、食道癌の頻度や将来の人口減少を考慮してある程度の施設の集約化を緩やかに誘導したいと考えています。

情報発信と国際化

我が国の食道癌診療の成績が優れていることは国際的には一部で認知されていますが、まだ不十分です。学会誌Esophagusのインパクトファクターの向上により、日本からの情報発信を促してゆきます。国際食道疾患会議(ISDE)との連携も今後一層推進してゆきます。一方で扁平上皮癌の治療戦略でリーダーシップをとってアジアでの連携を深めたいと考えています。

学術集会と横断的食道学の促進

今後、早い段階の食道癌は非手術療法で治るようになり、切除不能癌が化学療法や放射線療法により切除可能になり、食道癌治療全体の低侵襲化および予後の向上が促進されます。そのために、外科、内科、放射線科、病理などすべての診療科が参加して討論する学術集会はますます重要になると思います。また、食道機能性疾患においても診断から治療まで内科、外科をまたぐ幅広い知識が要求されます。学術集会のみならず、実臨床の場でも他科との協力を推進してゆきたいと思います。

そのほかにもチーム医療、頭頚部癌や食道胃接合部癌、医療安全など食道疾患の治療は様々問題を抱えています。その一つ一つに誠実に対応し、一歩一歩確実に医療の向上に尽くしたいと考えております。理事長として会員の皆様のご支援を広くお願いする次第です。よろしくお願いいたします。

令和元年6月
日本食道学会理事長
土岐祐一郎